Column

フクロウの目 建築は私たちの普段の生活に非常に密着しています。しかし建築に関することは分からないことだらけだという声をよく耳にします。
そこで第一弾として、建築に関することを中心に生活に密着したことをできるだけ分かりやすくコラムとして皆様にお伝えしたいと思っております。
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このコラムは2003年から表参道不動産のHPに掲載したものに若干筆を加え掲載しています。


01夢を現実にするために

今日から建築について知っていて良かったと思う情報や知識(たまには無駄だ。と思うこともあるかも知れませんが)について多くの皆様に発信出来ればと思っております。
よろしくおつきあいください。
これから自邸を建てたい、土地を探している、リフォームを考えている、お店を始めたいなど多くの夢をお持ちの方に少しでもお役にたてれば良いなと考えています。世の中には、「知っていればこんなことなかったのに。」ということがたくさんあります。
皆さんも、少なからずそのような経験をお持ちだと思います。とくに専門的なことについては、専門家がこういっているからこういうものだろうと自分で無理に納得してしまったり、諦めがちですがそれではいけません。自分で勉強することも大切だと思います。そして疑問は、専門家にぶつけることで良い選択ができるものだと思います。そこで良いコミュニケーションができることも大切です。
特に、不動産等土地や建物を購入するのは大きな資金が必要です。ですから失敗も許されません。
しかし多くの方は、わりと安易に土地を買ったり、建物を買ってしまいがちです。たとえば、興味がある車を買う時は穴が開く程カタログをみて「オプションがどうだ。こうだ。」などと夢中になっている方が、いざ土地を買う時は1,2回現地へいって決めてしまうなんてことも多々ありがちです。
土地を買ったり、建物を造る時にも、自分で創る未来の設計図が真っ黒になるくらい何にでも興味を持っていただくことがなにより大切だと思います。これは、夢を現実にするための大きな一歩だと思います。


02地名から見える土地のすがた

どんな建物を建てるのにも土地が必要です。
少しでも良い土地と、条件のあった土地と、そして安い土地と巡り会うのは至難のわざではありません。こんなとき貴方だったら何を頼りにしますか?知人に聞く、それとも様々な情報誌、インターネット、不動産会社。あらゆる手はあります。しかし最後は貴方が決めなくてはなりません。そしてこんな時一番大切なのは自分自信で歩き、土地をよむことです。

ここで建築的な視点から土地をよむコツを2、3お教えしましょう。
一つめは、地名です。地名に着目すると案外その土地の原風景が見えてきます。例えば「青山」「渋谷」という地名があります。もう気付かれた方もいらっしゃると思いますが片方は「山」片方は「谷」という漢字がついています。そうです。もうお分かりでしょう。
実際、青山から渋谷に向けては緩やかな勾配がついています。そして渋谷は谷と云う字から見ても水が集まりやすい地域だと言えます。簡単なことですが、このように地名からわかる土地の情報は意外と多いのです。
今日では、都市部ではインフラも整備されこのようなことはあまり気にせず過ごすことが出来ます。しかし土地の表面のことは分っても地下のことはなかなかわかりません。今お話したことは一つの目安ですが地名に着目することでその土地の本来の姿が少しでもわかるのは間違いありません。
皆さんがお住まいの地名にも様々ないわれや歴史があるはずです。一度郷土資料館や、図書館でひも解いてみるのもよいかも知れません。なにかすばらしいことがわかるかも知れません。


03ハザードマップを御存じですか。 

前回に引き続き、土地を読むコツについてお話したいと思います。
今回は少し具体的に土地について知る術をお教えしましょう。
皆さんハザードマップの存在を御存じですか。「ハザード」は英語「危険」という意味で、ハザードマップは火山噴火や洪水などの災害が起きたときに地域にどのような被害が出るかを予想した地図のことです。国で指針をつくり、現在では自治体などが主体になって作成しています。例えばこれを見ると、依然に洪水になった地域等を知ることが出来ますし、災害予想についてもある程度知ることが出来るのです。

このようなハザードマップは区役所や図書館で閲覧させてもらえます。一度皆さんも見ては如何でしょう。このほかにも阪神淡路大震災の時に話題になった活断層マップや地滑り等の可能性がある危険斜面マップなどもあります。このように様々な地図から土地の情報を知ることができます。なぜこのようなお話をするかと云うと私達人間は、自然の力に対しては全く無力だからです。いくら頑丈な家をつくっても成す術はありません。だからこそ我々の先人たちはそれを身を持って体験し、長い年代を越えてに住みやすい、安全な土地を求めたのです。ですから古墳等のある場所は比較的安全な土地が多いと云われています。

現代人である我々は、情報は古代人より多いのにも関わらず自然に対して全くと云ってよいほど無頓着です。もう少し人間は自然に歩み寄って声を聞くことが必要だと思うのです。そうすれば「住」としての土地の本質も見えてくるかも知れません。


04地盤は建物の要

皆さんも、建物にとって基礎はとても重要な事はお分かりでしょう。その基礎の力を全て受ける地盤は建物の安全性を高める上で基礎と同等に重要であると言えます。

今回は、土地を読むコツの中でもなかなか分かりにくい土(地盤)のお話を少ししましょう。土は同じように見えますが、様々な種類と性質がありこれが建物に様々な影響を与えます。地盤沈下によるトラブルは1000件に5〜10件の割合で起こっているといわれ、決して希なことではありません。
地盤によっては、思わぬほど地盤が悪いため基礎にお金がかかってしまうこともあり、建物の価値を左右すると言えます。軟弱な地盤や、盛土地盤などでは、地盤が徐々に沈下してその上の建物が地盤に追随して傾くことがあります。このような現象を不同沈下と言います。皆さんもお聞きになったことがあると思います。徐々に沈下するためなかなかわかりませんが、ある日突然、基礎にひび割れが起きたり設備配管が切断されたりと建築物に致命的なダメージを与えることがあります。

このようなことが起こらないようにするには、やはり専門家による地盤調査をお勧めします。地盤調査と云っても大袈裟に考えなくても戸建て住宅であれば簡易な地盤調査方法があります。一般的にはスウェーデン式サウンディング試験というものがそれです。地盤の硬軟や土層の構成などをチェックし、その地盤の性状を判断します。結果によっては、基礎の補強や地盤の改良を行うことになります。
またジオテック株式会社(http://www.jiban.co.jp/)のホームページでは、地形で見る軟弱地盤マップなどがフリーで公開されておりぜひ地盤のチェックに役立てる事をお勧めします。
地盤を知ることが安全で長もちする建物をつくる第一歩だと思います。


05軟弱地盤でも建物は建つ 

軟弱地盤だからといって建物が全く建たないわけではありません。対処法をきちんとすれば問題なくしっかりとした建物は建つのです。一番悪いのは、その土地が軟弱地盤だと云うことを知らないことが問題なのです。知らないことでの代償は大きなものです。

ではどうすれば良いのでしょう。一般的には、大きな建物や荷重の大きい建物の場合は、その建物が支持できる地盤まで杭を打ったりしてしっかりとした基礎工事をおこないます。しかし木造住宅のような場合は費用の面からもなかなかそこまでは出来ません。(住宅の場合でも鋼管杭を使って支持させる方法はあります)今回は木造住宅の対処法の主なものを紹介しましょう。
基本は前回お話したようにまずその土地の地盤がどのような状態なのかを知ることが肝心です。これは専門家に任せ地盤調査をおこなうことで解決します。地盤を知った上でどの対処法にするかが重要なのです。

対処法の主なものは大きく分けて2つに大別できます。一つは地盤自体を改良してしまうものです。いわゆる地盤改良と云うものがこれで表層改良と柱状改良と云うものがあります。
もう一つは建物の基礎で対応する方法です。これは基礎の底盤を広げたり、ベタ基礎といって建物の全面に基礎のコンクリートを打ったもの等があります。土地や周囲の状況でどちらが良い方法かは、個別に専門家の意見聞きながら判断することになります。
同時に地盤改良や基礎仕様の変更によってある程度の費用がかかる(一般的に総工費の2〜3%)ことも考えておかなければなりません。家は長い間使うものですから資産価値を考えると、基礎に十分な検討をすると共に少しでも安全な手法をとることをお勧めします。


06「礎」は建物の基礎 

今回は、少し基礎についてお話しましょう。基礎の「礎」は「いしずえ」とも読み「点々と離しておいたおいた柱の下の石。」と云う意味があります。語源は「疋」(ショ)は、左右別々に離れた足を表し、「楚」(ソ)はバラバラに離れた木の枝と云う意味を持っています。(出典:広辞苑)現在では「基礎」という言葉は建築に限らず広義な意味で使われているのは周知の通りです。

それでは、建築的な基礎にはどのような意味があるのでしょう。基礎には大きく分けて2つの重要な役割があリます。一つめは、建物上部の力をうまく地盤に伝えたり、地震等の外力に対抗したりと構造的な役割を担っています。もう一つは湿気から建物を守ると云うことです。構造的な役割は皆さんも知っている方が多いのですが以外と知られていないのが湿気から守ると云うことです。日本は多湿な気候であり木造と云う建材を生かした建築が主体の国です。木は長期の湿気によって腐ってしまいます。古くは弥生時代、農耕民族である日本人は穀物の倉庫を高床式の建築物でつくっています。これは湿気から穀物を守るという知恵から出た当然の形であると言えるでしょう。
日本人は、古くから地面から離して床をつくる技を自然と身につけていたのです。国宝の正倉院は高床式の宝物殿で有名ですが、近くにある神社仏閣なども必ず基檀の上に建っている事がわかリます。このように昔から湿気から木を守ることがおこなわれてきたのです。現在の木造住宅でも最下階の居室の床の高さを地盤面から45センチメートル以上とすることと、基礎に換気口をつけ通風を確保することになっています。(現在では基礎パッキン工法といって、土台と基礎の間に隙間をあけ通風を確保する工法が主流です)このように基礎は建物基本性能に大きく関わる基礎中の基礎と言える重要な役割を担っているのです。


07地盤と基礎のつなぎ役 

地業(じぎょう)という言葉を知ってますか。建築では基礎の下の部分基礎と地盤の間をさします。地形(じがた)等とも読むことがあります。一般に建築では割栗地業、砂利地業、杭地業などという使い方をします。この地業にはいろいろな種類の石を使います。割栗石はその代表的なもので、天然の丸みを持った石(直径10〜20センチ)を割ったもので角が角張っています。一方砂利は岩石が風化あるいは侵食等の自然作用によって粒状になったもので、密度も細かいものから石状のものまで様々な規格があります。採取場所によって山砂利や、川砂利、海砂利といったものがあります。
コンクリートの中の粗骨材にも使われます。しかしこの砂利の採取は生態系への配慮や防災的見知から採取方法や業者の登録等砂利採取法という法律で厳しく規制しています。この砂利というのは緩衝材として多く建築の他にも使われています。
その代表的なものが線路の敷き砂利です。列車の振動と騒音を抑制してくれるすばらしいしかもローコストな材料です。建築でも地盤と基礎の重要な緩衝材として使われているのです。建築ではこの地業が基礎の力をうまく地盤に伝える役割をしています。ある時は力を均等に伝え、ある時は地盤からの振動を和らげるまさに地盤と基礎のつなぎ役を果たしているのです。
近ごろでは、この砂利や割栗の変わりに災害の時に使う土のうを基礎の下に埋めるという施工実験がが行われています。振動を吸収し上からの荷重はしっかりと伝えるという素晴らしい結果が出ている様です。砂利や割栗以上にコストもかからずこれからのスタンダードになるかも知れません。


08家と土台 

今日は少し専門的な部分から離れて聖書のマタイの福音書に「家と土台」という一節があるのでこれを御紹介します。

家と土台(マタイ7.24-29)「そこで、わたしのこれらの言葉を聞いて行なう者は皆、岩の上に自分の家を建てた賢い人に似ている。雨が降り川が溢れ、風が吹いてその家を襲っても倒れなかった。岩を土台にしていたからである。わたしのこれらの言葉を聞くだけで行なわない者は皆、砂の上に家を建てた愚かな人に似ている。雨が降り川があふれ、風が吹いてその家に襲いかかると、倒れて、その倒れ方がひどかった。」イエスがこれらの言葉を語り終えられると、群集はその教えに非常に驚いた。彼らの律法学者のようにではなく権威あるものとしてお教えになったからである。

私は、家の土台(物事の基礎)は重要な部分であること。そして、この最後のフレーズの”律法学者のようにではなく権威あるものとしてお教えになったからである。”という一節から読み取れるのは、物事は机上の空論ではダメで経験し知識のあることは説得力があり、それが非常に大切であると云うことを指しているように感じるのです。2000年前のお話ですが、今とあまり変わらない気がしませんか。


09土台は耐朽性が命 

「土台そんな話は無理だよ」などと私達はこの土台と云う言葉を日常でも使います。

「基本的に」とか「元々」とか根本的なという意味がある様です。

専門的には、土台とは木造建築の柱の下部に配置して、柱から伝えられる荷重を基礎に伝える役割を果たす横材のことです。土台は、コンクリート等の基礎にアンカーボルトで繋結されるのが一般的です。このような構造的な意味からも重要な意味を担っているのはお分かりでしょう。

さて木造の建築物では様々な樹種が適材適所に使われています。「木」と云っても多くの種類があるのです。前々回の時にお話しましたがこの土台は縁の下の湿気がこもりがちなところにあるので、特に腐りにくい性質が要求されます。ここは、耐朽性抜群のヒバが一番よいとされます。次に耐朽性の高いヒノキもお勧めです。それから、クリも耐朽性が高く、昔はよく使われましたが、最近は資源が乏しくなり、市場に出回らなくなりました。ヒノキは大昔、こすり合わせて火を付ける時に用いたため「火の木」と呼ばれるようになったと言われるほど、桧は乾燥性に優れ湿気に強く、桧の香りの元成分である「ヒノキ油精分」は優れた防虫成分を含んでいます。 世界最古の木造建築物といわれる奈良県は法隆寺の五重塔が1300年以上も残っているのは、こんな優れた耐朽性のある桧を多く用いているからだと言われています。

また土台にはこんな話もあります。皆さんが知っている土用の日。これは春夏秋冬4回あり、土の働きが旺盛となる季節をさします。太陽が立春・立夏・立秋・立冬に入る前18日又は19日間が土用です。この土用中は四季の変化期に当たり、土気盛んなので、動土・穴掘り等の土を犯す作業を特に忌む(基礎工事や土台造り)は避けるという言い伝えもあります。但し、建築では、土用前に着工して、土用中でも続ける事は差し支えないようです。気にするかは別として、木造の土台は自然と大きく関わっているのです。


10木材は個性的 

あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。皆様にとってよい一年であります事お祈り致しております。

前回は土台のお話をしました。そして耐朽性のある木材が使われることをお話しました。他にも住宅に使われる木材はその特性を生かして使われています。

今回は少し木材についてお話しましょう。住宅など建築に使われる木材には、構造材(柱・梁等)と非構造材(造作・家具等)とがあります。構造材には、国産材・外材とも、針葉樹製材品が多用されています。それらには、構造材としての品質を保証するためにJAS(日本農林規格)が適用されます。

これは節、割れ、腐れ等の大きさ、数、程度によって木材を等級分けするものです。また、造作材は化粧材としての役割を持つためJAS規格では化粧的な品質基準を評定しています。木材の材質の特性としては、以下のことがあげられると思います。まず長所として挙げられるのは軽くて強く加工が容易であるということ。化粧材としても使うことができること。また耐久性向上が可能であるということ。そしてなんといっても他の構造材より安いというのが大きなところでしょう。

短所もあげられます。やはり天然材料のため材質にばらつきがあるということ。未乾燥材を使うと後に割れ・狂い・収縮等が発生する恐れがあること。腐朽菌や白蟻の被害対策が必要であるということが大きなところでしょう。このように木材は自然材料としての特性を多く持っています。このあたりがスチール等の工業製品と大きく異なる部分です。木材を構造材として上手に使うには、力のかかり方と木材の性質(欠点の状況を含む)をきちんと捉える必要があります。例えば、梁の中央下部には、大きな節がこないようにする。繊維が斜めになっている材(目切れ材)や、繊維方向に大きなひび割れの入った材は梁として使わない。梁受けのための端部の切り欠きは、できるだけ小さくする。などがあげられるでしょう。

そして重要なのが木材の含水率です。木材は必ず乾燥した材を使わなくてはなりません。一般的に乾燥材の目安は、「梁材など断面の大きなものは、含水率20%以下(できれば17%以下)」、「柱材などその他の材は17%以下」としたいものです。このように木材は工業製品と違い、木材の扱いにはある程度の技術が必要です。極端にいえば一本一本異なる品質をもっているということを十分理解しなければならないということです。

それぞれの特性を知ったうえで組みあげられる木造空間は、工業製品にはないあたたかな素晴らしい空間を作りあげるのです。


11今年の運勢は? 

さて皆様のなかには初もうでにいかれて今年の運勢を占ういみでおみくじを引かれた方も多いと思います。運勢は如何でしたか。

そのなかに建築に関わることも書いてあるのをお気付きでしたか?

「建て前よし」だとか「新築よし」などと表現はいろいろですが近いことが載っていたはずです。このように建築には、昔からの言い伝えや12支、家相学、地相学、方位学、占術学などと関係の深いものが多く残っています。

そのなかで皆さんがよく耳にするものでは家相というものがあります。鬼門、裏鬼門などという言葉を聞いたことがあるでしょう。

昔から伝わっている家相は、理論にあっているものと迷信といわれているものが、混在して伝わっています。しかも同じ事でも、全く逆の説があったりします。時代とともに変化しているものがあって、これが定説というものがありません。

しかし、家相というものは、人間の生活に直結しているものですから、それぞれの時代の知識や生活状態に即応して、絶えず変化してきました。そして、その時代的背景に応じて、いろいろな説があったと思います。

家相は、約5000年まえに中国で起こった学問で儒教等の学問の影響をうけ大陸をつたわって日本に入ってきたといわれています。その地域の地形や気候、風の方向や強さ.雨や雪についての間題なども含めての環境の中で、人が健康に暮らしていくための知恵や住みやすい家にするための工夫、そして自然環境をむやみに破壊しないための知恵が長い歴史の中で培われてきた教えが家相であると言えるでしょう。

なかにはこんな言い伝えものこっています。

暦のなかに三隣亡(さんりんぼう)という言葉を見つけることが出来ます。

通常、三隣亡とは、12支の活動が凶変し火災を起こしたり、そこに住む人が狂人になったり、家が倒れ怪我をするなどいろいろと恐れられる日と考えられています。

建築にとっては、非常に悪い日でこの日に建築を始めたり、柱をたてたり棟上げをすることは極度に忌まれ三隣亡の日に建築をするとその家の両隣と、向かいの家の三隣を亡ぼすというものです。

三隣亡は、室町時代に考え出されたもので、宇宙創造の霊とする「三輪宝」を祭る日とされ万物が動き出そうとし陰陽の調和によって、天理に服する意味の極めてめでたい日、又は万物の発生から終末までの順序と、万物の根本を尊重するという考えから、祖先を崇拝しその恩恵に感謝する日という説もあります。

おもしろいことに、三隣亡と三輪宝は全く逆の意味をもっています。三隣亡が悪い日とされるようになったのは明治以降で、比較的最近からと言うことですが、その根拠は今だにはっきりとしていません。

このような流動的で長い過去をもったものを現代の常識で判断して、家相のすべてを迷信と決めつけることはできません。その基本的な理論にかなった正しい知識の部分を理解し、良いところは取り入れることが必要なのだと思います。

それでは今年一年みなさんにとって良い年になりますように。


12木材の無限の可能性 

以前、木材には本1本に個性があり、そしてそれが木材の長所でもあり欠点でもあるというお話をしたと思います。

今日お話する集成材は、この欠点の部分を少しでもなくそうと考えられた画期的な建築材料なのです。少し専門的なお話すると、集成材は、一定の製造基準に基づいて人工乾燥し、大きな節や割れなど木の欠点を取り除いた引き板を木目にそって長さ・幅・厚さの方向に集成接着した建築材料のことをいいます。そしてその特長は、木材特有の欠点を取り除き、狂い、割れ、ねじれ、曲がりなどがおこりにくいことがあげられるのです。

日本でも古くから、お城の天守閣や社寺建築物にも木材を寄せ集め一体として使ういわゆる集成工法というものがありましたが、このころは鉄のタガやびょうで木材を締め付け一体とするものでした。近代でいう集成材は、接着剤よって木を一体にし集成効果を高めています。

わが国で最初に接着集成材が開発されたのは、電柱の腕木として作られた時といわれています。また、第1回の南極観測のために集成材の舟艇が造られています。その後昭和35年ごろから主として装飾的に使われる柱、長押(なげし)などの造作用集成材の生産が盛んになり、さらに製造技術や接着剤の進歩によって、今日、建築材として使われる造作用、構造用などの各種集成材が生産されるようになったのです。

この生産技術の向上により建築における集成材の利用は広がっていきました。

現在の集成材の用途はは大きく分けて二つにわけられます。

一つは造作材としての用途、もう一つは構造材としての用途です。

建築内部の造作用部材として使われるものは、ひき板もしくは小角材等を素地のままで積層接着したものです。この表面に薄い化粧板を貼りつけた化粧ばり造作用は、貼りつけた化粧板の種類により豊富な表面効果を得ることができます。

主な用途に階段の手すり、壁材、パネルの心材など多様な用途に使用されるほか、建物内部の造作用と、化粧ばりして、長押、敷居、鴨居、落掛、框、笠木などの造作に使われます。

構造耐力を目的とした部材は、ひき板をその繊維方向を互いにほぼ平行にして積層接着したもので、所要の耐力に応じた断面の大きさと安定した性能を持ち、大スパンの建物の建設が可能です。また、現在では技術の進歩により、わん曲材とすることも可能になっています。

木構造の耐力部材として柱、桁、梁、わん曲アーチなどに使用されます。住宅はもちろん、スパンの大きな工場、学校、体育館、公民館などの公共施設、橋梁、木造船等々、にいたるまで様々な用途に使われます。皆さんも見かけることが多くなったのではないでしょうか。

このように集成材の技術は木材を規格化し安定した品質を供給し、木材に無限の可能性を与えた技術革新と言えるでしょう。


13コンクリートはデリケート 

今日はコンクリートのお話をしたいとおもいます。
コンクリート(concrete)のは、ラテン語の concretus(con-共に+crescere 成長する+-tus 過去分詞語尾)で、「いろいろなものがくっつきあって固まったもの」の意味だといわれています。コンクリートはセメント、砂、砂利または砕石などに水を加えて練り混ぜたもので、十分な湿気と温度によって強度が大きくなっていき、通常約1ヶ月で目標とする強度に達成します。
現在コンクリートに使用されるセメントは、ポルトランドセメントとよばれています。これは、 1824年に英国人のレンガ職人アスプジンがその製造方法の特許を取得しました。石灰石を粉砕して焼いたものに粘土を混ぜ、水を加えて微粉砕し、さらに炉で焼いて粉砕したセメントです。このポルトランドセメントという名前はポートランド島から産出される石材の色とよく似ていたためポルトランドセメント portland cement と命名されたといわれます。そして、セメントの語源ですが、cementという言葉には元々"固める、接合する、結合する"という動詞と"固めるもの、結合させるもの"という名詞的な意味合いがあったものが、19世紀の初頭より現在のような材料の固有名詞として一般的にも広まったというのが定説のようです。

コンクリートは比較的安価でどこでも入手でき、圧縮力が比較的強く、風化や火災に対して丈夫で、型枠さえあればどんな形でも自由に造れる素晴らしい材料です。日本で最初に鉄筋コンクリートで造られた荒川放水路の旧岩淵水門は建設中に起きた関東大震災にもびくともしませんでした。これは今でも現存しています。他にも建築、土木と広い分野で使われてきました。皆さんも御存じの 横浜三井物産ビル(1911年)や 聖橋(ひじりばし)(1927年)等の構造物は今でも健在です。しかしコンクリートは、パーフェクトな材料ではありません。引張力に対しては弱い為、実際の構造物に使用する場合は、鉄筋による十分な補強が必要ですし、水を混合するので、乾燥収縮によるひび割れが入りやすく、また凍害による劣化が生じる場合があるなど材料の特性や施工管理面での扱いの難しさもあります。そして現在では、コンクリートは様々な要因で劣化することも分っています。主なものではこのようなものがあげられます。

中性化:本来コンクリートはアルカリ性なのですが、空気中の二酸化炭素が原因で中のコンクリート内の鉄筋を錆びさせます。鉄はさびる際に、体積が膨張しようとします。コンクリートの内部から鉄筋が膨らもうとする力が働けば、コンクリートはその力に抗しきれず、ひび割れを起こしてしまいます。

塩害:塩素が鉄筋の保護膜を破り、錆びさせます。これも中性化と同様にコンクリートはひび割れをおこします。これはよく水洗いしていない海砂を使った場合などに起きます。

アルカリ骨材反応:コンクリートのアルカリ性と骨材とが化学反応し、この時にできる生成物が成分を吸収しコンクリートを変形させたりひび割れをおこします。コンクリートのガンともいえる深刻な状況です。そうして出来たひび割れを伝って、また新たなさびの原因となる水や酸素、そして二酸化炭素が入り込む…。これが構造上の重大な欠陥にもなりかねないのです。

コンクリートの善し悪しは、コンクリートのもつ特性を十分理解した上で、材料管理と施工管理で決まるといっても過言ではありません。手軽に使われている割にはセメントやコンクリートの特性を十分に理解している人は少ないかも知れません。しっかりとした材料管理や施工管理もとに造られれば100年以上ももつ材料なのですが、一つ間違えると1、2年で壊れてしまうこともあるのです。

そのような意味では、コンクリートは、非常にデリケートな材料であるといえるでしょう。


14「もちつもたれつ」

前回はコンクリートのお話をしました。

今日は鉄筋コンクリートのお話をします。鉄筋コンクリートはRC造とも言いますRCとは、Reinforced concrete(補強コンクリート)の略です。鉄筋とコンクリートのお互いのよい部分を生かしつつ、欠点を補うという”もちつもたれつ”の関係なのです。 

もう少し具体的にお話しますと、引っ張りには強いが熱や錆に弱い鉄筋を、引っ張りには弱いが圧縮に強いコンクリートで包み込み、材料の短所を補いながら長所を生かす複合材料といえるのです。これを用いたRC造は、遮音性、耐震性、耐火性などの基本性能に優れています。

RC造の工法には、建物の部位をあらかじめ工場生産(PC:プレキャスト・コンクリートとよぶ)して、現場で組み立てるプレファブ工法や、建築現場で型枠内に鉄筋を組み立て、コンクリートを打ち込む工法があります。構造的には、柱と梁で構成されたラーメン構造と、耐力壁で構成された壁式構造の2種類が一般的に知られています。ラーメン構造は、柱と梁と床版(スラブ)だけでも架構をつくることができますが、地震に耐えるためには柱や梁が太くなってしまう為、通常は耐震壁をバランスよく配置する方法がとられます。

一方、壁式構造は、壁厚20センチメートル以上のダブル配筋による鉄筋コンクリートの壁が耐震壁となります。壁の厚みがある為遮音・断熱性能上も有効であり、また部屋の内部に柱や梁の突出がないため、低層の住宅に多く採用されています。RC造はコンクリートを流し込む型枠次第で、ドーム型の屋根に曲面の壁を組み合わせたり、長方形に限らず様々なデザインに対応できるのも大きなメリットです。反面、部材が強固であるため増改築には注意が必要です。

また材料の性質上、鉄筋コンクリート単体では、冬場に結露を起こす心配が出てきますので、外周壁や最上階のスラブでは断熱材の打ち込み等の対策が必要です。とくに、現場打ちのコンクリートは、工事完了後も内部に水分が含まれているために、屋内に湿気がこもりがちになりますので、換気などの適切な防露対策が必要です。

一般的にコンクリート工事の工期は、型枠作成→配筋→コンクリート打設→養生→脱型→仕上など、現場での工程が多いため、十分な養生・乾燥期間も含めてある程度の期間を見込む必要があります。工期を急いだり手をぬいたりすると構造耐力の低下にもつながりますので気をつけなくてはいけません。近代建築の発展とともに鉄筋コンクリートの品質も上がってきています。

現代の建築物の至る所で使われている鉄筋コンクリート。根本にはコンクリートと鉄筋の”もちつもたれつ”の関係のうえに成り立っていることを知っておかなければなりません。


15「鋼材の出生証明書」

数回にわたり建築の鋼材についてお話しようと思います。今日は鋼材の品質についてお話します。

建築に使われる金属材料の代表的なものは鉄と鋼です。炭素の量や処理方法によって呼び名が変わってきます。鉄や鋼は、建築物のあらゆる部分に使われています。

近代建築の発展は鉄の大量生産によって築かれてきたと言っても過言ではありません。皆さんも鉄骨や鉄筋などという言葉を聞いたことがあると思います。超高層を始め高層のビルはほとんどがこの鋼材を使って建てられています。

ところで皆さんはこの建築に使われる鋼材の品質について考えたことがありますか。ビルに使われる鉄骨の品質が確かなものなのか、又どのようにしてその品質が保たれているのか疑問を持ったかたはいらっしゃいますか。

最近では連日のように新聞をにぎわせている食の安全や品質の問題が社会問題にもなっています。スーパーに行くと「○○産、生産者○○」と表記してあります。鋼材でも同じことが言えるのです。

鋼材には、出生証明書とも言える鋼材検査証明書(Inspection Certifcate)」と言うものがあります。大量に鉄鋼メーカーが、規格が指定された鋼材を受注した場合に、その製造結果が指定された規格などの要求事項を満足している事を証明した書類のことで、一般に「ミルシート」と呼ばれています。規格の無い鉄板は鉄屑と同じであり、鉄鋼メーカーが規格を証明する唯一の証明書がミルシートであり受注企業(販売企業)は受注先企業(販売先企業)に対して、ミルシートの提出義務が生じます。ミルシートが出ないものについては無規格品とし化学成分値および材質試験値が保証されておらず、品質のばらつきが大きいと考えられるので、主要構造部材には使用しないものとされています。

そしてこれらの規格を定めているのJIS(日本工業規格)です。世界でも有数の厳しい規格といわれています。建築鋼材だけでなく工業製品の様々な規格が決められています。現在ではISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization)との整合性が計られ世界的にばらつきのない品質が得られるようになる日がくるでしょう。

このように建築鋼材と言っても規格品から無規格品まであり建築の安全を根底から支えているのはこのような厳格な品質保持によって支えられていることを知らなくてはなりません。


16「鉄はしなやかに」

今日は鋼材の持つ長所と短所についてお話します。

まず建築で使われる鋼材とはおおよそどのようなものかをお話しましょう。

鋼材は、一般的に銑鉄(鉄鋼石をコークス等で還元してとりだした溶鉄)を精錬(不純物を除去)して製造、圧延して作られます。銑鉄の状態では、炭素が3〜4.5%含んでいます。そして鉄を精練する事で、不純物の他に炭素を0.15〜0.40%ぐらいまで取り除くのです。このようにして鉄の不純物を極力取り除き均一でねばり強い鋼材をつくり出すのです。

それではこのような鋼材の長所とはどのようなものなのでしょうか。

鋼材は工場で生産される為、均一なものが生産できます。また工場でそれらを加工するので加工精度が上がります。そして天気等にも左右されない為工期が短くなるのも大きな長所と言えるでしょう。

二番目の長所はコンクリート等に比べて同じ断面積での強度があるので、同じような建物であれば柱や梁等の部材を小さくすることできます。

そして三番目の長所は鋼材のもつ粘りなのです。そしてこのしなやかさが建物にとってとても重要なのです。 例えば地震等で建物にに大きな力がかかって形が変形しようとすると柱や梁として使われている鋼材はもと戻ろうとにします。このとき“ねばり”があると力に対して柔軟に抵抗できるのです。かたくて強いと一旦大きな力がかかると、形がもとに戻らなくなってしまい結局建物に大きなダメージをあたえてしまいます。超高層等の建築物に鋼材が使われるのもこのしなやかさがあるからなのです。

それでは短所はどのようなものでしょうか。

やはり鉄は熱に弱いことが大きな短所と言えるでしょう。ですから建築物に鋼材を使う場合にはこの耐火という部分をクリアーしなければなりません。もう一つこれは皆さんもお気付きと思いますが錆びると言うことです。これは鉄と言う材料の宿命であると言えるでしょう。この防錆についても十分配慮し鋼材を使わなければなりません。しかし現代ではこれらの短所を補う様々な材料や技術が進歩しほとんど問題なく鋼材を使用できるのです。鉄の持つ素晴らしい特性が私たちの社会をつくり出しているのです。


17「鉄を火から守るすべ」

今回は鋼材の耐火についてお話します。前回お話したように鉄は熱に弱いということをお話しました。
そこで皆さんに質問です。「鉄と木ではどちらが火災に強いとお考えですか?」

木はすぐ燃えてしまいそうで鉄の方が強いと思った方。大勢いらしたと思います。

実は強いと思われている鉄も550℃を超えると強度は50%以下に低下し、住宅程度の骨組みはほとんど崩れ落ちてしまいます。火災時の温度は700〜950℃になるため、木も鉄もほとんどその差はないと言っていいほどです。ところが、木はある程度の厚さや太さがあるものは、いったん燃えた後に表面に炭化層をつくるので、それ以上、燃えにくく強度も低下しないという性質を持っています。つまり、火事になった場合、急速に強度が低下する鉄よりも木は強いといえます。

このように鉄を構造的に使う場合、耐火ということなしには成り立たない建材だということが十分お判りいただけたと思います。ですから耐火性能が求められる建築物の柱や梁等に鋼材を使う場合、鉄を火から守るすべが必要になります。

よくお聞きになったことがあるのが耐火被覆(たいかひふく)という言葉だと思います。この耐火被覆というのは、鋼材の周りを耐火性能がある材料で被うことで鉄を火や熱から守ってやろうと云うものです。

現在使われている耐火被覆は、湿式工法ではロックウールをセメントと混ぜて吹き付けするものや乾式工法ではセラミックファイバーやロックウ−ルをフェルト状にして巻き付けるもの、また珪酸カルシュウム板などで鋼材を囲うもの等が一般的です。近ごろでは使用制限はありますが、耐火塗料と云うものもあります。塗料のように鋼材にぬってやればいいのです。塗料がある一定の温度になると発泡し鉄を熱から守るという塗料です。

また、近年では鋼材自体のの成分を変え熱に強い鋼材をつくる技術も開発されています。

FR(Fire Resistant Steel)鋼と云うのがそれです。開発当初は、耐火被覆厚を低減する目的で作成されました。 火災時の温度は1000℃とされますが、一般鋼は350℃で耐力が2/3になります。 FR鋼は600℃で耐力が2/3になるよう開発されていますので耐火被覆を薄く出来る訳です。 FR鋼を使用することにより耐火被覆の厚みは約1/3程度まで減少出来ます。 条件が揃えば無耐火被覆も可能となります。FR鋼は現在使用するには色々な制限がありますが、このような技術が進めばいつの日かもっと鋼材を自由に使える日も遠くありません。


18「鉄骨造を支える職人の技(その1)」

鉄骨造は、柱や梁、床等のいくつかの部材から成り立っています。これらをつなぎ合わせる技術は、一般的にはボルト接合や溶接という技術を使い組み立てていきます。

今回はその鉄骨の溶接についてお話しましょう。

では溶接とはどのようなものなのかを少し具体的にお話します。

溶接とは金属を溶かして継ぎ合わせる技術をいいます。鉄やステンレス等鋼材によって溶接方法は若干変わりますが、鉄骨の溶接は主にアーク溶接というものを使います。アーク溶接とは、母材と溶接枠又は、電極との間にアークを発注させ、その熱を利用して母材を接合又は肉盛する溶接方法の総称です。現在では主流に被覆アーク溶接と、半自動アーク溶接という溶接法があります。

溶接部分のの最高温度は、太陽の表面温度と同じ6,000℃にも達するのです。

そしてこの溶接の技術は溶接技術者の技量によって維持されてきているのです。

建築基準法では、この接合部分の強度は母材(鋼材自体)の強度より強くなくてはならないと定めています。ですから理論上は接合部から壊れることはあってはならないのです。しかし私自身、阪神大震災直後神戸のまちを訪れた時、鉄骨造の建物もいたるところで崩壊しているのを数多くみてきました。その中で大きなこわれ方をしているものは、あってはいけない鉄骨の接合部から壊れていました。この時溶接の重要性を再認識したのを今でも覚えております。

建物は力をスムーズに伝えなければ成り立ちません。いくつかの部材から成り立って入る鉄骨造の場合、その接合の部分が壊れたらひとたまりもありません。

ですから鉄骨造というのはこの溶接技術によって支えられているといっても過言ではないのです。

鉄骨の溶接はほとんどの場合、鉄骨工場でおこなわれます。鉄骨製作工場(ファブ)は規模や、施設機器の整備状況、それと溶接技術者のレベルと人数などの評価基準によって5つのグレードに区分されています。その評価基準よってその鉄骨製作工場が扱える建築構造物や、建築規模、使用する鋼材等に制限をあたえその品質を維持しているのです。


19「鉄骨造を支える職人の技(その2)」

前回は鉄骨造の溶接とはどのようなものかをお話しました。骨組みをつなげる重要な技法ということはお判りいただけたと思います。

前回も少し書きましたがこれが職人による技によって保たれているのです。

皆さんは鉄で造られている大きな構造物や建造物で思いうかぶものはどのようなものがありますか。

あまり浮かばなかったかも知れませんが代表的なものでは造船や大きな橋梁、プラント等のタンクがあります。単純に云えば、これらは一枚一枚の鉄の板を張り合わせて造られています。建築では板厚が40mmあると厚い方ですが造船や土木構造物ではもっと厚い板厚の厚い板どうしをつなぎ合わせるのですから一回でそれをつなぎ合わせるのは難しく数回で何層にも溶接をくり返しつなぎ合わせてゆくのです。これらは建築の溶接技術より遥かに厳しい技術が求められていますしそれを支えるより厳しい規格も決まっています。

これだけ世の中が機械化されてきた中でもなぜ全て機械化されないのでしょうか。それは、人間の五感で作業を行なわなければならない繊細な作業であるということに尽きるのだと思います。機械には任せられない微妙な感覚が多く残されている技術であると言えるのです。しかしながら自動化やロボット化もまったくおこなわれていないわけではありません。単純な溶接箇所では自動溶接機やロボットも多く取り入れられています。

しかし複雑な溶接や微妙な箇所はやはり人間がまだまだ主役なのです。ほんの小さな気泡や傷が致命傷になる溶接の世界では人間の微妙な感覚が必要とされているのでしょう。

しかし、そんな熟練の技術者でも100%はありません。その為溶接箇所は、ほぼ全数溶接がきちんと行なわれているのをチェックをおこないます。これは一般的には第3社機関によって検査が行なわれます。溶接の場合なかなか外観からの目視ではわからないので、特殊な測定機器で溶接箇所に超音波をあてそのエコーによって表面からどのくらいの深さのところにどのような傷があるかという判定がおこなわれ致命的な傷は完全なやり直しが求められます。

このような厳しい検査を経て鉄骨は建てられているのです。


20「ケンチク キジュンホウ」〜多国籍料理のような法律〜

皆さんは、この建築基準法という法律ご存知ですか。建物を建てるには、規模等にもよりますがこのケンチクキジュンホウのお世話になることになります。名前は知ってはいるが内容は知らないという方多いのではないでしょうか。近年では姉歯問題で初めてお聞きになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
他人事ではないといった方も数多くいらっしゃるはずです。

専門家にまかせっきり?それでは困ります。
どんな法律だか知りたいと思いませんか。そこで「必要なのは建築知識」でも取り上げてみようと思います。よいも悪いも建築物はというのは、この建築基準法という法律によってルールが決められ建てられている“はず”なのですから。“はず”といったのは違反建築というのも中にはあるからです。
そもそもこの建築基準法だいぶ古い法律です。昭和25年に制定されています。その後幾度かの改正がありました。平成10年に50年ぶりの大きな改正がありその後毎年のように改正が行われています。建築基準法にかぎったことではないのですがだいぶ古い法律が屋台骨になっていますのでめまぐるしく変わる現代社会に合わない部分も多く指摘されています。
元来はこの建築基準法は、市街地建築物法といって警察の管轄であったようです。 当時の警察はこの法律によって建物関連の取り締まりも行っていたようです。

早速「ケンチクキジュンホウ」にふれてみようと思います。
この法の目的とは何でしょうか。
法の1条に書いてある条文を原文でここに掲載してみます。
“この法律は建築物の敷地、構造、設備、及び用途に関する最低の基準を定めて国民の生命、健康、及び財産の保護を図り公共の福祉の増進に資することを目的としている。
と書かれています。この条文を要約すると,この法律は最低の基準を決めて「私たちの生命・財産や社会基盤を守ろう。」ということです。しかし先日の新潟や福井の大雨等の自然災害にはこの法律も全く無力なのかもしれません。ましてや人間のモラルが崩れては姉歯事件のようなことは繰り返されてしまいます。なかなか大義はどの法律も立派なのですが運用までとなると矛盾点も多く出てきてしまいます。そして法文面が難解なのがまた運用を難しくしているのも事実です。(どんな法律もそうですが)またおかしなことに町並みや景観の立場からはこの基準法はいっさい建築にはふれていません。ご存知だとは思いますが近年ではこのような景観論争も増えてきています。

建築とは何なのかを数回にわたりキジュンホウの視点から少しひもといてみることにしましょう。易しい解説本も多く出回っていますので皆さんも本屋で一度建築基準法にふれてみてはいかがでしょう。

(最近の法改正では、姉歯などの一連の構造偽装問題から昨年末に構造の計算等を中心にキジュンホウが大きく改正されました。六ヶ月後の平成19年6月20日はその施行猶予期限です。新しい法律で建築業界が動き出そうとしています。)


21「ケンチクキジュンホウその2」

前回、基準法は建築に関わる最低の基準を決めているというお話をしました。ではどんなことを決めているのかを少し具体的にお話ししましょう。

まず基準法は制度規定と実体規定に大きく分かれています。簡単に言えば前者の制度規定は、基準法を運用するにあたり様々な決まり事を書いている部分と言えるでしょう。そして後者の実体規定とは、建築物の具体的な規定が書かれており大きく集団規定と単体規定に分かれています。建ぺい率、容積率、道路斜線などといった言葉をお聞きになったことがあるでしょう。これらの建築の面積制限や高さ制限、用途地域、防火地域等は前者の集団規定です。それに対し、今話題のシックハウスや構造、防火、避難に関して規定など建物単体については後者の単体規定で決められています。

ここでいくつか基準法で使われる用語について例を挙げてみます。
はじめに「建築物」という言葉ですが皆さんはどんなイメージをお持ちですか。屋根があって壁がある?そんな感じですか。いや柱もあるかな。海に浮いていたらどうなのかな。なんかわからなくなりそうです。何となく頭ではイメージがあってもなかなか文章にすると難しそうです。
基準法ではどのようなものを建築物なのかを規定しています。

建築物の規定を箇条書きにすると以下のようになります。(本文まま)

1. 土地に定着する工作物
2. 屋根及び柱もしくは壁を有するもの
3. 付属する門、塀
4. 観覧の為の観覧場
5. 地下
6. (鉄道や高速道路などの)高架下にある事務所や店舗、興行場、倉庫等など
7. 建築設備

これが現在の基準法の建築物の規定になります。ですから極端な話、海に浮いていたり、空中に浮いていれば建築物ではないと言えますし、壁だけで屋根がなければ建築物ではないとも言えます。ドームは別として野球のスタジアムは屋根がないので建築物ではない?これは4番めの観覧場に該当し建築物になります。門や塀も基準法では建築物となって規制を受けますし、受水槽やキュービクル等の設備の施設も建築物なのです。

次に面白いところでは、「居室」と言う用語です。基準法では居室か非居室では規制がだいぶかわってきます。もちろん居室の方が様々な規制がかかってきます。それでは居室と非居室の定義とはどんな物なのでしょうか。
基準法では居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的の為継続的に使用する部屋と規定しています。ですから一般的には住宅では,居間や寝室、台所が居室で玄関やトイレ等は非居室と解釈されます。

このような用語の定義がたくさん基準法にはあります。これらを理解しないと基準法の本文を理解するのは難しいと思います。
基準法にふれるには、まずこの用語の定義からふれるのがよいでしょう。


先日コラムにも書きましたが平成19年の6月20日に耐震偽装問題を受けて新しい建築基準法が施行されました。改革のテーマは『厳格』だそうです。施行以降,建築業界は色々な意味で激震が走っています。
今後建築はどこに向かって走ってゆくのでしょう。


22「ケンチクキジュンホウその3」

あけましておめでとうございます。
昨年2007年は建築業界に取っては非常に厳しい年になりました。昨年6月に施行された建築基準法改正は建築に携わる関係者に取っては様々な形で仕事に影響がありました。社会経済的にも大きな影響があった事は皆さんもニュースなどでご周知のとおりです。発端は姉歯元建築士の構造偽装への対応の法改正ですが問題はどうもそれだけではないように感じます。閉鎖的な建築業界が少しでも社会に向き合い信頼回復が出来るかが今後の建築業界への発展を左右するカギになる事は言うまでもありません。

さて前置きはこの程度にして本題に入りましょう。前回は、基準法で言うところの居室とは何かということをお話ししました。では基準法は、「居室」に対してどのような最低の基準を決めているのでしょう。

最初に天井高です。居室の天井高は2.1m以上とする。ただし学校の床面積50m2をこえる教室の天井は3.0m以上とすると規定されています。元来天井高さは居室内の気積を確保する為に決められていた様です。換気設備があまりなかった頃の最低限の基準で現在では見直しの議論もある様です。2.1mという半端な数字も昔の尺寸法の名残です。(2.1m=7尺)

次に決められているのは、居室の床の高さなども決められています。これは、床下防湿の見地から規定されています。最下階の居室の床が木造の場合は,床の高さは45cm以上とする。また外壁の床下部分には壁長5m以内に換気孔(面積300cm2,防鼠設備付き)をもうける。ただし床下をコンクリート等で覆う等地面から発生する水蒸気によって腐食しない構造とする場合は問題ないとしています。

又地階における住宅等の居室についても制限があります。これは本来地下の居室は禁止されていたのですが地盤の高騰などにより地下をより有効に使えないかということで平成12年にある一定の基準をもうけて地階の居室を許可したものです。数値などの詳しい部分は省きますが、これも十分な換気と土に接する部分の防湿対策を行わなければなりません。

騒音に関しての規制もあります。長屋や共同住宅(マンション等)では隣接する住戸からの日常生活に伴い生じる音を衛生上支障が無いよう低減するために各戸の界壁は、小屋裏または天井裏まで達するものとし、かつ一定の遮音性能を持たせるものとしなければなりません。

居室では衛生面の部分の規定が主になりますが、この採光と換気の規定は代表的なものになります。

居室には換気の為の開口部を、床面積に対して1/20以上設けなければならないが、不足する場合は換気設備で代用できるとあります。それとは別に,劇場・映画館等の客席や火気使用室(調理室などで火気使用設備また器具を設けたもの)には換気設備を設けなければならないと規定しています。

採光の場合人口照明でも得られるが,住宅の居室や学校の教室では自然採光によるものとし、その床面積に対して一定の割合の採光上有効な開口を設けなければなりません。

住宅や病院の病室ではではその割合が1/7で最も厳しいものでは幼稚園や小学校、中学校、高等学校などの教室や保育所の保育室で1/5、病院や診療所の談話室,娯楽室や前出の学校以外の学校では1/10とされています。ただ窓があれば良いのではなく採光上有効でなくてはならず,用途地域や隣地境界線や窓のある高さによってその条件は変わってきます。

そしてここ数年で新聞などをにぎわせている言葉にシックハウスという言葉があると思います。社会問題にもなったこのシックハウスに関しても国土交通省は遅まきながら平成14年にこのシックハウスの原因になっていると思われる化学物質について使用の禁止や規制そして換気設備の義務づけをおこないました。(平成15年施行)

シックハウスとは建築建材などに含まれる化学物質が材料から発散され呼吸を通じて体内に沈積されそれが健康に悪影響を与え頭痛その他の諸症状を引き起こしていると考えられています.人によっても個人差があり余影響を受けない人もあれば強く反応してしまう人もありまだ発症メカニズムも必ずしもすべてが明らかになっていないものです。

現在規制の対象になっている化学物質は、クロルピリホス(シロアリの駆除剤)。これは使用禁止になっています。ホルムアルデヒド(刺激臭のある無色の気体、メタノールを酸化して製造、その水溶液はホルマリンとして消毒剤に用いられる。建材では合板の接着材などとして使われる)は使用制限があります。
対象となる建築材料は合板やフローリング、構造用パネル、MDF、パーティクルボード、ユリア樹脂背着を用いて接着した建材、壁紙、グラスウール、ロックウール、ユリヤ樹脂断熱材、メラミン樹脂断面材、メラミン・ユリア共縮合断熱材、フェノール樹脂断熱材、現場で施工する塗料(アルミニュウムペイント、油性調合ペイント、合成樹脂調合ペイント、フタル酸樹脂ワニス)現場施工の接着剤(酢酸ビニル樹脂系溶剤型接着剤等)その他の仕上塗料などが現在では対象になっています。

今後もこのシックハウスは原因がさらに究明されると規制などが厳しくなると思います。このように居室は生活に密着しており、衛生の観点からさまざまな規定がされていることがお解りだと思います。


23「地震と向き合う建築構造技術」

2004年10月23日に発生した新潟県中越地震や2007年3月25日発生した能登半島地震は、多くの犠牲者を出しそして街や村の景観を一変させてしまいました。今なお家を失って避難生活をされている方も多く、その後遺症は計り知れない結果となってしまいました。被災された方にはあらためてお見舞い申し上げたいと思うと同時に、一日も早い復興をこれからも応援したいと思います。

震災は忘れた頃にやってくる。阪神大震災(1995年1月17日)から約12年ちかくの月日が経とうとしていました。
今回も阪神大震災同様、直下型地震と言われるタイプのもので、多くの建物や構造物がおおきなダメージを受けてしまいました。

建築と地震の関係は密接で、大きな地震があるたびに建築や土木の構造の基準が変わっています。耐震と言う考え方では、まだまだ地震の揺れに対するメカニズムが100%わかっているわけではなくまたその解析方法も一つではないので経験工学的な側面も多いにあるわけです。ですから耐震構造というのは、強い大きな地震があるたびに構造強度が地震に耐えうる基準に変わっていくことになります。現に今回も阪神大震災の時と同様新耐震基準(昭和56年)前の老朽化が露呈した建物が多く被害に遭っている様です。一方で倒壊せずに外見の損傷もない住宅が少なくなかった様です。

しかしこのまま基準が厳しくなると、いつくるかわからない地震の為に大きな構造で造らなくてはならず建設コストの面からは耐震という考え方も限度があるように思えます。事実新しい基準を決めてもそれ以上のエネルギーを持った地震がくればその被害は大きなものになってしまいますし、エネルギーが同じでも地盤が変われば大きな被害に結びついてしまいます。今回の地震でも粘土層の地盤では被害が大きく、砂利層の地盤では比較的被害が少なかったとの報告もあります。

ここ20年建築では、ただ地震のエネルギーに対抗するのではなく、制震や免震と言うような地震力を抑制または制御し、そのエネルギーが建物に伝わらないようにする技術が急速に成果を出しています。元々大きな建築物が対象のこの技術も最近では住宅メーカも免震住宅と言って売り出すようになってきました。

では制震と免震とはどのような技術なのでしょうか。次回詳しくお話ししましょう。

24「制震と免震」

このところ大きな地震が日本各地で頻繁に起きています。昔から地震大国である日本の建築は、重い瓦と木造の躯体でつくられていた為、大きな地震のたびに甚大な被害を被ってきました。近年では、地震の強さや揺れ方が研究され、建物を丈夫につくる耐震と言う構造で多くの建物がつくられています。耐震と言う技術は基本的には経験工学なので地震がくるたびにその基準は変わることになります。近年では多くの被害をもたらした、阪神淡路大地震のデーターや新潟県中越地震のデーターが生かされ、構造物の耐震という技術に大きく貢献しているのは間違いありません。しかしこれでは大きな地震がくるたびに構造基準が見直され、強い強度のものをつくらざるを得なくなり、100年に一度くるかと言う大地震に備えるにはあまりにも経済的にも効率が悪いことになります。そこで耐震構造に代わりここ10年〜15年で、免震構造や制震構造と言う技術が脚光を浴びる様になってきました。ここ数年ではハウスメーカーでも制震や免震住宅などと宣伝しているのが良く聞く様になってきましたので、皆さんもお聞きになったことがあるのではないでしょうか。

それではもう少し具体的に耐震と免震そして制震というものがどういうものなのかを簡単に説明します。

まず今までの大半の構造の考え方である耐震構造は、建物自身の剛性を高め土台を地盤と強固に固定し、建物の強度やねばり強さ(部材の変形能力)で地震力に抵抗する構造なのです。もっと完結に言えば建物を強固にし地面に固定して、建物自身の強さで地震に抵抗する構造とも言えると思います。

次に免震構造ですが、建物と地面との間に何か柔らかい物やローラーのような物をおいて、地震と一緒に建物自身を動かして揺れを小さくする構造だと理解しておけば良いと思います。そして制震ですが、免震と異なり受けるエネルギーを小さくするのではなく、受けた地震エネルギーの増幅を最小限にして建物への影響を少なくする構造技術です。

それぞれ技術にはそれぞれの特徴があります。
免震はゆっくり揺れるため建物内部の家具などの転倒を防ぐ効果もありますが制震は激しく揺れるため家具などの転倒破壊の恐れがあります。
そして免震構造は重くて固い建物に効果的で(鉄骨ラーメン構造は不向きです)あまり縦に長細い建物には効果的ではありません。一方制震構造は軽くて柔らかな建物向きで(耐震壁付き構造は不向きです)搭状建物にも適しています。
建物に取付ける装置は免震構造では主に地盤と基礎の間に積層ゴムや鉛ダンパーを入れる事で地震の入力エネルギーを押えます。コストもかかります。

制震構造では間柱型ダンパーやオイルダンパーによって受けた地震エネルギーの増幅を押えるのが特徴です。免震よりはコストは抑えられます。
それぞれの技術に長所、短所もありこれからも進歩する技術である事は間違いありません。先ほどお話ししましたが地震工学や建築工学はどちらも経験工学である事は否めません。ですからそれらの技術ももちろん地球の未知のエネルギーにすべて対応出来ない事はお分かりだと思います。

25「地震の大きさの単位」

また大きな地震が東北地方で起きてしまいました。被災された方々には、心からお見舞い申し上げます。先日は中国で大規模な四川大地震が起きた後だけに多くの方が心を痛めた事でしょう。あらためて自然エネルギーの大きさには人類の力は無力だという事を思い知らされます。

建築物は地盤と接している以上この影響を大きく受ける構造物です。今回はその密接な関係である地震エネルギーと建築との関係についてひも解いてみましょう。

地震の大きさを表す単位は震度、ガル(gal)、カイン(kine)、マグニチュード(M)、の4つの単位がよくが用いられます。皆さんがよくお聞きになるのは震度やマグニチュードではないでしょうか。この4つの単位の中で震度、ガル、カインは観測した地点での地震の揺れ方(地震動)の大きさを表しています。一方、マグニチュード  は地震そのものの規模を表しています。ニュース速報で流される震度は、もともとはその場所での地震の被害程度や人間の受ける体感を、大まかに7つに分けて表し揺れの大きさを数値で表現しています。ですから、”どこどこ地域では震度5”と言ったように場所場所で違って来ます。

同じように、ガル、カインも観測しているその地点での地震動の大きさを表しますが、震度よりももう少し揺れ方を科学的に表現した数値と言えます。

ガルは地震動の大きさを「加速度」で表したものです。例えば車が発進する時に、ある大きさの速度に達するまでの時間が短かければ短かいほど大きな加速度が加わったことになります。皆さんも車が急発進をすると体が座席に強く押し付けられる経験があると思いますがこの力が強いほどこの加速度が大きいと言う事になります。

地震でも同じように、地面の揺れよって建物に加速度が働きます。この作用した加速度の最大値を使って地震動の大きさを表わします。この地震ではこの場所で最大何ガルの加速度が生じたと使います。これも大きい数値程大きな地震動であったことをあらわしています。観測器の精度や設置場所によっても違いますが関東大震災の時がおよそ330ガル、阪神大震災では最大800ガル、新潟県中越地震で2515.4ガル、今回の岩手・宮城内陸地震では国内の地震でははじめて4000ガルを超える最大加速度が4022ガルの加速度データーを記録しました。その値がどれだけ大きいかと言うと1ガルは物体の速度が1秒間あたり秒速1センチずつ速くなる状態を表します。ボールを手から放すと、重力のためスピードを増しながら落ちますが、この時の加速度が約980ガル。4000ガルは、揺れの力が重力の約4倍以上に達したことを示すことになります。加速度は、上下、水平方向への地盤の動きを基に計算されますが、今回の地震では水平方向の動きよりも上下の動きが激しかったことがわかってきました。今回の地震は、断層が上下にずれる逆断層型で、たまたま観測点が震源の直上付近にあったことから、断層の上下方向の動きで激しい縦揺れに見舞われそのため極めて大きな加速度が記録された可能性があるとみられています。

では建築物がどの程度の加速度に耐えられる様につくられているのかをご紹介しましょう。厳しい建築耐震基準でつくられている原子力発電所でも耐450ガル〜耐800ガル程度です。実際新潟県中越地震では1000ガル以上の加速度が記録されています。一般の建物でも耐100〜350ガルが一般的ではないでしょうか。

次にカインは地震動の大きさを「速度」の単位で表したものです。地震動の速度で一秒間にどれだけ変位するかを表す単位で、1カインは、1カイン=1cm毎秒(1kine=1cm/sec)としています。

兵庫県南部地震では、最大で90kineを越える記録があります。これはその観測地点で1秒間に90cmの距離を移動する速さを持った地震動があったことを示しています。車の発進にたとえると、同じ加速度でも、言い換えれば同じようにアクセルを踏んでも、どのくらいの時間アクセルを踏み続けたかで、速度や移動距離が変わって来ます。建物に加わる地震動でも、同様に、最大加速度が同じ地震動であっても、加速度の継続時間などによって速度に違いが生じます。建物にとっても地震動の速度が重要になりますので、この速度の最大値で地震動を表わすことがあります。最大何カインの地震動が働いたと言うように使います。もちろん大きい数値程大きな地震動であったことを表しています。

実際の建物が受ける地震動の大きさは、地震の状況をおおまかに示した震度ではなくて、ガル、カインで表すことが一般的です。たとえば、建物は地震によって東西南北上下と立体的に3方向に揺られますので、それぞれの方向に“最大何ガルの地震動が働いた”と言うように表します。このようにガル、カインといったデーターを一つの物差しとして過去のデーターをこれからの建築の構造に生かしています。このように建物が地震に対して安全かどうかを検討する場合には、一般的に過去に起きた地震の記録を用いて検討しているのです。

少し専門的な言葉が多くでてきましたが私たちはこれからも日本に住む限りこの地震と向き合っていかなければならない事は確かな様です。地震がいつ起きるかの予測はまだ少し先の事になると思います。今私たちができるのは災害時の備えをしっかりする事かもしれません。

(社)日本建築構造技術者協会HPより一部抜粋

26「建築士のこれから 」

2008年11月28日建築士法が改正施行されて6ヶ月が過ぎようとしています。5月27日の一定の建築物について構造設計一級建築士、設備設計一級建築士の関与の義務付けで改正建築士法の一連の大改正が終了します。2005年の姉歯元建築士の偽造発覚から基準法の改正により建築確認・検査の厳格化、指定確認検査機関の義務の適正化が行われ、同時に建築士の業務の適正化や罰則強化、建築士の資質、能力の向上,高度な専門能力を有する建築士による構造設計及び設備設計の適正化、設計・工事監理業務の適正化など様々な改正がおこなわれました。
これらの改正で建築士を取り巻く環境は大きく変わりました。本来はこのような改正がなくとも国家試験により独占業務を受けている建築士が当然持たなくてはいけない資質であるはずなのですが。しかし社会的にも下がってしまった建築士の地位を再度向上させるにはこれら一連の事象を真摯に受け止め努力してゆくしかないのでしょう。

これらの改正と同時にあまり社会的にはニュースになりませんでしたが建築士の業務報酬基準の改正というのも行われました現在までは告示1206号と言う告示があり一つの報酬基準として取り扱われていましたが、告示1206号は廃止され新たに告示15号という指針が出されました。適正な業務とそれに見合う対価ということで今回改正されたようです。

構造偽装事件は、私たち建築家だけでなく建築業界または社会全体で考える機会を得たこととして受け止め今後の建築業界に生かして行く必要を改めて感じています。
27「建築素材のあれこれ 」
〜コンクリートの素顔〜

今回から数回建築で使われる様々な素材についてお話し致します。はじめに皆さんがよく知っているコンクリートについてお話を進めたいと思います。
「13 コンクリートはデリケート」にも簡単にコンクリートの特性については概略書きましたが今回は少し掘り下げてお話ししようと思います。コンクリートは皆さんもご存知の素材だと思います。材料は主にセメントと砂・砂利と水が原料です。コンクリートと一口で行っても様々な種類や今日の性能になるまで様々な技術によって支えられています。そんなコンクリートの素顔に迫っていきたいと思います。

その歴史は古くローマ時代には、火山灰と石灰を混ぜて水道橋をはじめとする建造物がすでに造られています。近年の研究では、中国の西安に近くに5000年前と見られる住居跡の床面が水硬性のセメント系の材料を用いたコンクリートで築造されたと報告されています。
現代のセメントの原型は1700〜1800年頃イギリスで開発されています。レンガ職人が「ポルトランドセメント」と名付けたのが最初と言われています。名前をジョセフ・アスプジンといい近代セメントの発明者と言われています。尚セメントにつけられたポルトランドとはイギリス南部の島名で当時建築等に使われていた石灰質の石材があったと言われています。しかし当時のセメントは現在の様に使い勝手が良かった訳ではありません。1890年にアメリカの少量の石膏を加えることで急結を防ぐことを発見した後品質は向上してゆきました。

日本では136年前の1873年(明治6年)に東京の深川に官営のセメント工場が出来上がりました。1881年(明治14年)には山口県の小野田市に小野田セメントの工場が出来上がっています。

28「建築素材のあれこれ 」
〜コンクリートは配合が命〜

今回からコンクリートの素顔に少し深く踏み込んでみましょう。まずセメントはなぜ固まるのかという疑問にお答えしましょう。コンクリートの主原料であるポルトランドセメントは、石灰石・粘土・鉄さい(鉄鉱石を製鉄する時に出る残りカス)の原料から出来ています。しかしこれだけでは困ることが起きてしまいます。セメントは水と混ぜることで硬化させるのですが、混ぜるとすぐに化学反応が生じ硬化を始めてしまうのです。そこで、固まる時間を遅らせる役割として石こうを加え凝固時間を調整しています。

セメントと水を混ぜると、セメント粒子の表面では直ちに水和反応が生じ、一般的には4〜5時間で一度反応は安定しますが、その後10数時間程水和反応を繰り返し硬化が進行してゆきます。そして、7日から28日で最終強度の70〜80%に達するのです。また凝固するときにセメントは熱を出します。これが凝固熱です。コンクリートが暖かいときは水和反応が進行中ということです。そして水和反応はコンクリート内に水分がある限り、長い年月にわたりこの反応は継続するのです。コンクリートは、セメント、骨材(砂、砂利)、水、混和剤の材料を配合しています。この材料配合が生コン(フレッシュコンクリートの性能を大きく左右することになります。

建築や土木工事で使われる生コンは、JIS規格(日本工業規格)で認定された工場で造られます。ここで配合されるコンクリートは設計図面に記載されている仕様毎にレディーミクストコンクリート配合計画書に基づき配合の計画がたてられます。要求仕様従い、どんなセメントを使って、どこで取れた骨材(砂、砂利)を使い、そしてどんな水を使い、どのような混和剤を使うのかなどそれぞれの材料が厳しくチェックされます。このような材料試験に合格したものを使い配合計画に基づき正しい量で混ぜ合わせることで一定の性能を持ったレディーミクストコンクリートができるのです。

29「建築素材のあれこれ 」
〜コンクリートの性能を左右する混和剤〜

コンクリートは、セメント、骨材(砂、砂利)、水、混和剤の材料から出来ていることは前回お話ししました。ここで少し混和剤の果たす役割をお話しします。混和剤はコンクリートの作業のしやすさ(専門用語ではワーカビリティといいます)の改善や強度・耐久性の向上、凝結速度の調整などを目的としてコンクリートに混和される薬剤の総称のことです。

日本では1950年代に混和剤の一つであるAE剤が導入されました。このAE剤とは、ワーカビリティの向上や凍結・溶解耐性を高める目的でコンクリート中に空気泡を発生させる(空気連行性)ために混和される界面活性剤です。この空気量ですが、適度な空気量はワーカビリティの向上になりコンクリートが扱いやすくなるのですが、逆に多すぎると強度低下にもなりかねないものです。ですから品質管理上、常に空気量の品質は重要な項目になります。

混和剤はAE剤の他AE減水剤、減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、起泡剤、発泡剤、凝結・硬化調節剤、急結剤、防錆剤、防水剤などがありコンクリートの性能を大きく左右するといっても過言ではないものなのです。現在、様々な混和剤が開発されコンクリートの用途によって様々に使い分けられています。

30「建築素材のあれこれ 」
〜コンクリートの測定〜

前回コンクリートのワーカビリティー(施工しやすさ)についてお話ししましたが、ワーカビリティーの指標になるコンクリートの測定値のひとつに「スランプ」という値があります。このスランプの試験方法は、スランプコーンという円筒状の試験用の型枠にレディーミクストコンクリートを入れ、突き棒でコンクリートを整えた後でスランプコーンを抜き取り、コンクリートの頂部が何Cm下がったかを測定します。この数値がスランプ値で数値か大きければその分コンクリートは下がっているので、レディーミクストコンクリートの流動性は高いといえます。

流動性の高いコンクリートは、スランプコーンを引き抜くと平面的に拡がってしまいます。その場合はスランプ値の代わりに、試験体の広がりの直径の値を測定します。これをスランプフロー(slump flow)といいます。スランプフローは一般的にスランプの値の1.5倍から1.8倍になると良いコンクリートとされています。

一般的に建築等のスランプ値は15〜18cm程度が採用されています。このスランプ値は、ワーカビリティーを知る大きな目安になるのです。建築構造物では鉄筋の密集度が高い為、流動性の高いコンクリートを使うのでスランプも高めですが、土木構造物は建築より鉄筋間隔も大きく,また強度や重量も必要である事から5〜10cm程度の低スランプのコンクリートが使われるのです。

最終更新日10.10.2
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